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浦和地方裁判所 平成9年(行ウ)12号 判決

原告

石川照夫(X)

右訴訟代理人弁護士

菅原克也

西村正治

深田正人

被告

(新座市長) 須田健治(Y)

右訴訟代理人弁護士

関口幸男

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第二 当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、埼玉県新座市(以下「新座市」という。)の住民であり、被告は、平成四年以降、平成八年一〇月七日現在まで新座市の市長であった。

2  被告は、新座市を代表して、平成八年八月三〇日、別紙土地目録記載の道路用地(以下「本件道路用地」という。)を六九七一万八八四八円で購入する契約を締結し(以下「本件契約」という。)、同年一〇月七日までに、右金員を全額支払った(以下「本件支出」という。)。

3  しかしながら、本件支出は、次のとおり違法である。

(一)  東亜燐寸株式会社(以下「東亜燐寸」という。)は、新座市野火止八丁目四五六番二及び同三に大型店舗「西友フードプラス」(以下「本件大型店舗」という。)を建設することを計画するに当たり(以下「本件建設計画」という。)、平成七年九月八日、新座市開発指導課長に対し、本件建設計画が、都市計画法(以下「法」という。)四条一二項に定める開発行為に該当するかどうか問い合わせる旨の照会書を提出したところ、被告は、本件建設計画は、法四条一二項に定める開発行為には該当しないと判断し、新座市都市整備部長は、同年一〇月二〇日、東亜燐寸に対し、その旨を回答した。

(二)  しかし、本件建設計画は、次のとおり法四条一二項に定める開発行為に該当するものである。

(1) 法四条一二項は、「この法律において開発行為とは、主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更をいう。」と定めている。

土地の形質の変更とは、土地に切り土ないし盛り土がされ、土地の表面の形状等が変更されることであるが、新座市では、雨水の流水対策が、新河岸川流域整備計画(昭和五七年八月新河岸川流域総合治水対策協議会策定)に従って実施されており、右計画に従って行われた整備等に伴う土地の形状の変更も、土地の形質の変更の有無を判断する際、考慮されなければならないものである。すなわち、新河岸川流域整備計画は、新河岸川流域・荒川流域における高所ないし上流に位置する地区からの雨水が無制限に右両河川に流入すると、低所ないし下流に位置する地区において溢水等が生じる危険があるため、高所ないし上流に位置する地区からの雨水が無制限に河川に流入することを防ぐために計画されているものであるところ、新座市は、新河岸川流域・荒川流域のうち高所ないし上流に位置することより、一ヘクタール(一万平方メートル)以上の土地においては、一ヘクタール当たり九五〇立方メートルの雨水の流出を抑制するための措置を講じなければならず、これに伴って行われる土地の形状の変更も、土地の形質の変更の有無を判断する際に考慮に入れられなければならないものである。

なお、建設省建設経済局長通知「再開発型開発行為に関する開発許可制度の運用の適正化について」(昭和六二年八月一八日経民発第三一号)は、区画の分割又は統合によって建築物等を建築する場合においても、「建築物の建築に際し、切り土・盛り土等の造成工事を伴わず、かつ、従来の敷地の境界の変更について、既存の建築物の除去やへい・かき・さく等の除去・設置が行われるにとどまるもので公共施設の整備の必要がないと認められるものについては、建築行為と不可分一体のものであり、開発行為に該当しないものとして取り扱うこと。」とされているが、埼玉県においては、「公共施設の整備の必要がないと認められるもの」とは、法三三条の基準に照らし、公共施設の設置を必要としない場合をいうとして運用するものとされており、建築物の建築等の行為が開発行為に該当するかどうかを判断する基準として、開発許可の基準を用いているのであり、本件建設計画が開発行為に該当するか否かの判断には、開発許可の基準をも考慮に入れなければならない。

(2) 本件建設計画は、約一万七八九二平方メートルの敷地(以下「本件敷地」いう。)に一階床面積約七四三三平方メートルの本件大型店舗と自動車三六二台が駐車可能な駐車場を設置するものであるが、前記「新河岸川流域整備計画」に従い、雨水を抑制的に処理する諸設備を設置するためには、総量三二〇〇立方メートルの土砂が切り盛りされなければならない上、駐車場用地は、アスファルト舗装され、貯水機能を兼ね備えるとされており、本件敷地の地盤は、表面の形質も含めて、大幅に変更されており、切り土、盛り土される土砂の多量さや敷地表面の形質の変更等を考慮すると、本件建設計画は、法四条一二項の開発行為に該当するものである。

(3) よって、被告が、本件建設計画について法四条一二項の開発行為には該当しないと判断し、さらに、その後、東亜燐寸が、本件大型店舗及び駐車場の地下に雨水抑制施設として貯留槽を設けるに至り、また、本件建設計画が開発行為に該当しないとされたことによって、道路の混雑等の弊害が生じたにもかかわらず、右判断を維持したことは、違法である。

(三)(1)  本件建設計画は、法四条一二項の開発行為に該当するが、本件敷地は、市街化区域内に所在する一〇〇〇平方メートルを超える開発地域に当たるので、本件敷地は、幅員九メートル以上の道路に接しなければならない(法二九条一号、都市計画法施行令(以下「施行令」という。)一九条一項、法三三条二項、一項二号、施行令二五条二号、都市計画法施行規則(以下「規則」という。)二〇条)ところ、本件敷地は、別紙図面一のとおり市道31―9号線(以下「本件甲道路」という)に接しているが、本件甲道路の幅員は、約六メートルであり、右要件を満たさない。よって、東亜燐寸は、いわゆる開発者負担として、自己の費用で本件甲道路の拡幅に必要な土地を購入して拡幅に供し、これを法四〇条二項の「公共施設しとして新座市に帰属させなければならなかった。すなわち、本件敷地は、幅員が九・八二メートルの県道新座・和光線(以下「本件県道」という。)にも接しているが(別紙図面一参照)、開発行為に係る建築物の敷地が法の定める接道条件を充足しているかどうかは、主として利用される道路を基準に判断されるべきところ、本件県道から本件敷地に入る利用車両は全体の一割程度であるのに対し、本件甲道路から本件敷地に入る利用車両は全体の約九割であるから、主として利用される道路は、本件甲道路であるといえるので、本件甲道路を基準に右接道条件を充足しているかが判断され、本件敷地が幅員九メートル以上の本件県道に接しているからといって、右接道条件を満たしていることにはならない。

本件道路用地は、本件甲道路と市道31―1号線(以下「本件乙道路」という。)が接する部分の付近の土地であり(位置関係は、別紙図面一記載のとおり)、本件敷地が接する部分から本件道路用地までは約五〇〇メートル離れている。

しかし、本件甲道路が、本件県道に接続する部分から本件道路用地までの約八〇〇メートルの間は、幅員が六メートルに満たない部分がある上、電柱が連なり、工場や倉庫等が建ち並び、歩行者、自転車、大型・中型トラック等の自動車が往来する危険な道路であったが、本件大型店舗建設に伴い、本件大型店舗へ物品を搬入する大型トラックが、本件甲道路を利用するほか、本件大型店舗へ来る顧客の車両により、本件甲道路から本件大型店舗内へ出入りする部分は、非常に混雑した状態となり、しかも、右部分から本件乙道路と交差するまでの間の本件甲道路から左右に伸びる道路は、いずれも、工場構内や住宅地へ通じる道路か、あるいは私道として通常の車両の通行が制限されている道路で、他の道路へ通じる道路が存在しないことから、本件甲道路を通過する車両のほとんどが本件乙道路を通行することとなる。このような本件甲道路の状況からすると、本件敷地と直接に接する本件甲道路の部分と、本件道路用地により拡幅された本件甲道路及び本件乙道路の部分とは、一体のものということができ、本件大型店舗の建設に当たり、本件甲道路の本件敷地と接する部分を拡幅することと、本件道路用地部分を拡幅することは、同質のことである。

そして、本件道路用地による拡幅計画については、平成六年二月策定の道路改良一〇か年計画では、平成一〇年から平成一四年までの間に位置付けられ、優先順位は最低位にあり、平成八年三月策定の道路改良一〇か年計画の見直し編では、平成一三年以降に位置付けられ、具体的計画案外とされていたにもかかわらず、新座市が、急遽平成八年八月三〇日に本件道路用地を購入したのは、本件大型店舗の建設に当たり、本件大型店舗付近の道路の交通量が大幅に増加し、混雑を招いたことによるのである。

このような、道路の物理的な構造や本件大型店舗への車両等の出入状況、大型トラックの通行状況等によると、東亜燐寸は、本件大型店舗の建設に当たっては、本件道路用地を自己の費用で購入し、これを新座市に「公共施設」として帰属させなければならなかったものである。

(2)  被告は、新座市を代表して、本件道路用地を公費で購入し、本件支出を行ったが、以上のとおり、本件支出は、本件建設計画について、これが開発行為であるにもかかわらず、開発行為として取り扱わなかったという被告の違法な判断に基づくものであり、また、本件道路用地は、東亜燐寸が自費で購入して新座市に公共施設として帰属させるべきもので、新座市が購入する必要はなかったのであるから、不必要な支出であり、違法又は不当な公金の支出である。

(四)  また、本件支出は、新座市が設置する土地開発基金の運用により行われている。新座市土地開発基金条例(以下「本件条例」という。)五条は、「市長は、財政上必要があると認めるときは、確実な繰戻しの方法、期間及び利率を定めて、基金に属する現金を歳入歳出現金に繰り替えて運用することができる。」と定め、これは、取得予定の公共用等の土地について、通常の予算措置を待たずに予め土地を取得するために活用される制度で、取得した土地を一般会計で措置するために返済時期等について予め見通しを立てて活用しなければならないとしているものであるが、本件支出についても一般会計による措置が行われておらず、本件支出は、本件条例に違反し、違法である。

4  原告は、平成九年四月一〇日、新座市監査委員に対し、本件道路用地の購入に伴う支出(本件支出)は、違法もしくは不当な公金の支出であるので、購入代金の返還を求める旨の監査請求を行ったが、新座市監査委員は、同年六月三日付けで、被告に対する措置の必要はない旨の決定をし、右決定の通知は、同月四日、原告に送達された。

5  よって、原告は、被告に対し、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、新座市に六九七一万八八四八円及びこれに対する平成八年一〇月八日から支払済みまで年五パーセントの割合による損害金を支払うことを求める。〔以下略〕

理由

一  本案前の主張について

1  被告は、新座市は、本件道路用地を適正な対価で買収し、本件支出をするかわりに本件道路用地を取得したのであるから、新座市に損害はなく、本件訴えは不適法として却下されるべきであると主張する。

しかし、原告は、本件道路用地は、東亜燐寸が購入した上で、法四〇条二項の「公共施設」として新座市に帰属させられるべき土地であり、新座市は、無償で本件道路用地を取得できるはずであったところ、本件建設計画を開発行為と判断しなかったことによって有償で取得しなければならなくなった旨主張し、本件道路用地を取得するために、対価を支出したこと自体をもって、違法な行為であると主張しているのであって、右行為が、新座市に損害を与えるものであることは、明らかであるから、被告の主張は、採用できない。

2  被告は、被告が本件建設計画を開発行為に該当しないと判断したことは、財務会計上の行為ではないから、このような非財務会計上の行為の違法に基づく訴えは、不適法である旨主張する。

しかし、原告は、被告が本件建設計画が開発行為に該当しないと判断して、本件道路用地を取得するために本件支出をしたことが違法であると主張しているのであるから、被告の主張は採用できない。

3  被告は、仮に、本件建設計画について開発行為に該当しないと判断したことが違法であったとしても、右判断によって、新座市が本件支出の義務を負担するものではないから、開発行為に該当しないという判断の違法は、本件支出に承継されないので、本件訴えは不適法である旨主張する。

しかし、本件支出が違法かどうかは、被告が、本件支出をするに当たって従うべき行為規範に違反したかどうかという点から判断されるべきであり、被告が従うべき行為規範に対する違反の有無は、まさに本案において判断される事項であるから、原告の主張を違法性の承継と構成した上でされた被告の右主張も採用できない。

4  以上のとおり、被告の本案前の主張は、いずれも採用できない。

二  そこで、本案について判断するに、原告は、本件建設計画は、法四条一二項の開発行為に該当するので、東亜燐寸は、本件大型店舗を建設するに当たっては、本件道路用地を自己の負担で購入し、これを新座市に帰属させるはずであったのに、被告がこれを開発行為に該当しないと判断したため、新座市が本件道路用地を公金を用いて買収しなければならなくなり、新座市に本件道路用地購入費用相当額の損害を与えた旨主張する。

三  本件建設計画が法四条一二項の開発行為に該当するかどうかについて判断する。

1  請求原因1、2及び4の事実のほか、本件建設計画は、約一万七八九二平方メートルの敷地に面積約七四三三平方メートルの本件大型店舗と自動車三六二台が駐車可能な駐車場を設置するものであること、本件大型店舗の地下には貯留槽が設置され、また、駐車場部分にも貯留設備が設けられていることは、当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実、〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(一)  本件敷地は、二筆の土地(新座市野火止八丁目〔番地略〕)から成り、総面積が約一万七八九二平方メートルで、本件県道及び本件甲道路に接する土地である。

本件敷地には、当初、別紙図面三のとおり九棟の建物(以下「本件既存建物」という。)が存在し、本件既存建物の用途、延床面積、構造、建築年月日は、別紙建物目録のとおりであった。本件敷地の利用形態としては、本件既存建物が、相互に近接して本件敷地に建築されており、本件敷地は、一団の本件既存建物の敷地の用に供されていた。また、本件敷地のうち、本件既存建物が建っていない部分は、通路等であり、本件敷地内において、極端な高低差はなく、ほぼ平坦であり、本件敷地の登記簿上の地目及び現況は、いずれも宅地であった(〔証拠略〕)。

(二)  東亜燐寸は、本件敷地に本件大型店舗を建設することを計画し、本件建設計画が開発行為に該当するかどうかについての回答を得るために、平成七年九月八日、新座市開発指導課長に対し、本件敷地の図面、本件敷地の現況の図面(別紙図面三)及び本件建設計画にかかる土地利用計画図(別紙図面四)の合計三枚の図面を添付した照会書を提出した(〔証拠略〕)。

右照会書及びこれに添付された図面には、本件建設計画は、本件敷地上の本件既存建物を除却した上で、床面積七六〇四・八五平方メートルの鉄骨平家建、塔屋二階の大型店舗を、本件既存建物と同一の敷地の中に建設するものであり、本件大型店舗が位置する場所には、本件既存建物のうち七棟が建っていることが示されていた。

そこで、当時の新座市開発指導課長であった小島は、本件建設計画の現場へ赴き、本件敷地について、その現況、土地の高低差、道路にどのように接しているのか等について調査したところ、高低差については、別紙図面五のX1線付近を基準とすれば、北方(X13線方向)にかけてなだらかに低くなり、他方、南方へ向けてなだらかに高くなっており、東西方向には、高低差はほとんどないことから(X1線付近とX13線付近の高低差は、約六二五ミリメートル、X1線付近と本件敷地南端線付近の高低差は、約七六五ミリメートルであった。)(〔証拠略〕)、本件敷地の現況調査の結果と前記照会書の添附図面を踏まえ、本件敷地について、切り土や盛り土をしなければ、土地を宅地として利用できないような状況が発生する程度の土地の高低差があるとはいえず、本件建設計画に伴って、ある程度の切り土及び盛り土は生ずるが、土地の物理的形状を変更する程のものではなく、本件敷地の登記簿上の地目及び現況はいずれも宅地であることから、本件建設計画は、現況の地盤を利用した計画であると判断した(〔証拠略〕)。

(三)  そして、被告は、平成七年九月二二日、本件建設計画は、〈1〉既存の敷地は、登記簿上の地目、現況とも宅地であり、既存の工場、倉庫等の建物(本件既存建物)の敷地の用に供されていること、〈2〉造成計画について、本件敷地の現況はほぼ平坦であり、照会書添附の土地利用計画図によると、新築される本件大型店舗は、現況の地盤を利用した計画であり、新たな造成は発生しないと判断できること、〈3〉区画について、既存の一連の建築物(本件既存建物)は、一敷地の中に建築されているが、本件大型店舗も、一敷地の中に一棟が建築されるものであり、建築区画の変更はないと判断されること、〈4〉形について、前記土地利用計画図によると、本件建設計画は、現況地盤を利用した計画であり、切り土、盛り土はあるが、土地の物理的形状を変更するとは判断できないこと、〈5〉質についても登記簿上の地目も現況も、共に宅地であること等から、開発行為に該当しない旨の回答案を決裁した(〔証拠略〕)。

(四)  新座市都市整備部長は、右回答案に基づき、平成七年一〇月二〇日、「本件建設計画は、開発行為に該当しないこと、しかし、事業計画の見直し等により新たに区画、形質の変更が発生する場合は、法二九条の開発行為の許可を受けることが必要であるので、念のため申し添えます。」と記載された回答書により、東亜燐寸からの照会に回答した。

(五)  その後、東亜燐寸は、新座市との同市開発行為等指導要綱に基づく行政指導による協議の結果、本件大型店舗の地下に底面積八三六〇平方メートル、貯留容量一一四七・八立方メートルの雨水貯留槽を、また、駐車場部分に底面積二三一〇平方メートル、貯留容量二四三・五立方メートルの貯留槽と、底面積一九九〇平方メートル、貯留容量二二〇・五立方メートルの貯留槽を設置することとした(〔証拠略〕)。

(六)  本件建設計画の実施に伴い、本件敷地には、切り土及び盛り土がされたが、その高さは、別紙図面五に「現状」として記載された数値と「着工前」として記載された数値(いずれも単位はミリメートル)との差であり、切り土の深さは最大四五五ミリメートル程度、盛り土の高さは最大四〇六ミリメートル程度であった。また、右の切り土及び盛り土は、本件大型店舗の基礎工事のために本件敷地を掘削するなどした土を移動させたものであった(〔証拠略〕)。

2  以上の事実に照らして、本件建設計画が開発行為に該当するかどうか判断する。

(一)  法四条一二項は、「この法律において「開発行為」とは、主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更をいう。」と定めているところ、建設省計画局長・都市局長通知「都市計画法による開発許可制度の施行について」(昭和四四年一二月四日建設省計宅開発第一一七号)の記Ⅱ1(2)は、「建築物の建築自体と不可分な一体の工事と認められる基礎打ち、土地の掘削等の行為は、規制の対象とはならないこと。従って、すでに建築物の敷地となっていた土地又はこれと同様な状態にあると認められる土地においては、建築物の敷地としての土地の区画を変更しない限り、原則として規則の対象とする必要はないと考えられること。」と定められており、前記認定した事実によると、本件建設計画は、本件敷地の上に存した本件既存建物九棟を除却して本件大型店舗を建築するというものであり、本件既存建物存在時には、本件敷地は、南から北に向かってごくなだらかに傾斜していた(南端と北端の高低差は約一七七センチメートル)ことから、本件大型店舗の建築に伴い、高さにして最大約四〇六ミリメートルの盛り土及び最大約四五五ミリメートルの切り土がされることとなったが、右切り土や盛り土は、本件敷地の形状に格別の変更を伴うものではなく、本件大型店舗の建築に伴う整地にすぎず、本件建設計画の用に供するために本件敷地の形質が変更されたと認めることはできないので、本件建設計画は、法四条一二項に定める開発行為には該当しないというべきである。

(二)  原告は、本件建設計画について開発行為に該当しないとの回答がされた後、行政指導に従って、本件大型店舗の地下には貯留槽が、駐車場にも貯留設備が設けられ、これに伴って切り土、盛り土がされているから、これらの切り土、盛り土をも考慮して、本件建設計画が開発行為かどうか判断すべきであると主張する。

しかしながら、右貯留槽や貯留設備は、新座市開発行為等指導要綱に基づく行政指導の結果、雨水排水に伴う調整施設の設置として、本件大型店舗の地下及び駐車場部分に雨水貯留施設を設置することとしたものであり、これらの貯留施設の設置のために施工された本件敷地の切り土や盛り土は、本件大型店舗の建築工事に附随する工事として施工されたというべきもので、右工事の態様、規模等に照らしても、薄い貯留施設を設置するための右切り土や盛り土を行うことが開発行為に定めるそれに該当すると解することは困難であるといわざるを得ないから、本件建設計画が開発行為に該当すると解することはできない。

(三)  さらに、原告は、本件建設計画が、前記建設省建設経済局長通知の規定にいう、開発に類似するものであるから、本件建設計画が開発行為に該当するかどうかを判断するに当たっては、開発許可の基準も考慮に入れるべきであると主張する。

しかし、本件建設計画における本件大型店舗の建築が、区画の変更を伴うものではないことは、前記説示のとおりであり、右通知が規定する開発行為の非該当事由の有無を検討する前提を欠くし、埼玉県が、開発許可の基準を考慮して開発行為であるか否かを判断する場合があるとしても、新座市は、前記認定のとおり、東亜燐寸から提出された計画等の書面だけでなく、現地調査を踏まえた上で、本件建設計画は、法の定める開発行為に該当しないと判断したのであるから、原告の右主張は、理由がない。

四  次に、新座市の本件道路用地の買収が違法であるか否かについて判断する。

原告は、本件建設計画が開発行為に該当するのであるから、本件建設計画の施行者である東亜燐寸において幅員九メートル以上の道路への接道や交通の安全、円滑を図るために本件道路用地の確保をすべきであるにもかかわらず、新座市が本件道路用地を取得したことは、違法であると主張する。

前記当事者間に争いのない事実及び〔証拠略〕によると、新座市は、道路施設総点検を実施し、平成六年二月、すみ切り、拡幅、歩道設置等の生活道路の改良に関する道路改良一〇か年計画を策定したこと、本件甲道路と本件乙道路は、日常的に大型車両が通行しており、右道路の交差点は、大型車両が容易に右左折をすることができず、しかも、新座市立東野小学校及び新座市立第二中学校の通学路となっていたことから、車両の円滑な通行及び交通安全等を確保することが緊急的な課題となっていたが、地権者の了解を得ることが困難であったことから、右道路改良一〇か年計画においては、平成一三年度以降実施とされていたこと、しかしながら、平成八年四月、本件道路用地の拡幅予定地の地権者石井たけが死亡したことから、相続人石井伊三郎と右交差点改良のための用地買収交渉を行った結果、同年八月三〇日、土地売買契約を締結したことが認められる。

右事実によると、新座市が、本件道路用地を買収したのは、新座市が策定した道路改良一〇か年計画に基づくもので、取得が困難であった本件道路用地の買収が可能となったことから、平成八年八月三〇日に本件道路用地を買収し、平成一三年以降に施行予定であった前記交差点の改良工事の実現を図ったもので、本件道路用地の買収が、本件建設計画に基づく本件大型店舗の建築を契機としたものでも、本件大型店舗の開設に伴う交通の安全や車両の円滑な通行を確保するためにされたものでもないし、本件敷地は、幅員九メートル以上の本件県道に接道していることは明らかであり、また、本件建設計画は、前記判示のとおり、法の定める開発行為に該当しないのであるから、新座市が、本件建設計画の施行者である東亜燐寸に本件道路用地の確保を求めることなく、同市の策定した道路改良一〇か年計画に基づいて本件道路用地を買収したことが、違法であると認めることはできない。

五  本件条例違反について

原告は、本件条例の基金によって本件道路用地を買収したが、新座市は、取得した本件道路用地について一般会計上の措置をする時期等の見通しもないまま土地開発基金による取得をしたもので、本件支出は、本件条例に反する違法があると主張する。

本件条例五条は、「市長は、財政上必要があると認めるときは、確実な繰戻しの方法、期間及び利率を定めて、基金に属する現金を歳入歳出現金に繰り替えて運用することができる。」旨定めているが、新座市土地開発基金は、公用若しくは公共用に供する土地又は公共の利益のために取得する必要のある土地をあらかじめ取得することにより、事業の円滑な執行を図るために設置された(本件条例一条)ものであるところ、市長は、基金設置の目的に応じ、基金の確実かつ効率的な運用に努める責務を負うことが定められているが(本件条例三条)、一般会計による措置を講じることが、右基金に基づいて土地を取得する条件として定められているわけではないので、本件道路用地の取得に際して一般会計による措置が講じられていないとしても、直ちに新座市の本件道路用地の取得が違法であると解することはできないし、原告が主張するような事実を認めるに足りる証拠もない。

六  結論

以上より、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 白井幸夫 檜山麻子)

別紙図面一位置図

〈省略〉

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